ボトックス注射は、シワ改善や小顔効果、肩こり緩和など、多くの悩みに応える身近な美容医療です。しかし、その手軽さゆえに「施術当日の過ごし方」の重要性が見過ごされがちではないでしょうか。
「ボトックスを受けた当日、お酒は飲んでいい?」「運動やサウナはいつから?」「食事制限は必要?」など、こうした疑問を抱えつつ、明確な答えがないまま過ごしてしまうケースは少なくありません。実は、施術当日の何気ない行動が、ボトックスの効果を弱めたり、内出血や腫れのリスクを高めたりする可能性があるのです。
ここでは、なぜ注意が必要なのかという医学的根拠から、飲酒・運動・入浴といった具体的な疑問まで、ボトックスの効果を最大化するための正しい当日の過ごし方を徹底的に解説します。

国立琉球大学医学部医学科を卒業。国内大手美容クリニックなどで院長を歴任し、2024年アラジン美容クリニックに入職。
特にクマ取り治療では、年間症例数3,000件以上を誇るスペシャリストである。「嘘のない美容医療の実現へ」をモットーに、患者様の悩みに真剣に向き合う。
知っておきたいボトックス当日の過ごし方が重要な医学的理由
ボトックス施術当日の過ごし方にはいくつかの重要な注意点が存在します。なぜ、飲酒や激しい運動などを控える必要があるのでしょうか。その答えは、ボトックス(ボツリヌストキシン製剤)が体内でどのように作用するのか、その基本的な仕組みと深く関連しています。
ここでは、施術の効果を損なわず、リスクを最小限に抑えるために知っておくべき医学的な背景を、専門用語を避けつつも正確に解説します。これらの「なぜ」を深く理解することは、納得して適切なアフターケアを実践するための第一歩となります。
ボトックス(ボツリヌストキシン製剤)の基本的な仕組み
ボトックス治療は、一般的に「シワ取りの注射」として広く知られていますが、その本質は「筋肉の働きを調整する」ことにあります。ボトックスの主成分は「ボツリヌストキシン」という、ボツリヌス菌が産生するタンパク質の一種です。この成分には、神経の末端から放出される「アセチルコリン」という神経伝達物質の働きを阻害する作用があります。
私たちの筋肉は、脳からの「動け」という指令が神経を伝わり、その終末でアセチルコリンが放出され、それを筋肉が受け取ることで収縮します。表情ジワを例にとると、眉間のシワは「皺眉筋(すうびきん)」、目尻のシワは「眼輪筋(がんりんきん)」といった特定の筋肉が、笑ったり、考え込んだりする際に繰り返し収縮することで、肌に折り目がつき、やがて深いシワとして定着します。
ボトックスをこの表情筋に正確に注射すると、ボツリヌストキシンが神経の末端に作用し、アセチルコリンの放出を一時的にブロックします。これにより、脳からの「動け」という指令が筋肉に伝わりにくくなり、筋肉の過剰な緊張状態が緩和されます。
重要なのは、筋肉の機能を完全に停止させるのではなく、あくまで「筋肉の働きを一時的に優しくお休みさせる」という点です。過剰な収縮や無意識の力みを抑えることで、表情はできるだけ自然な状態を保ちつつ、シワの原因となる筋肉のクセだけを和らげることが可能になります。
この作用は永続的なものではなく、通常3〜6ヶ月かけて徐々に神経伝達が回復し、筋肉の動きも元に戻っていきます。この可逆性(元に戻る性質)こそが、ボトックス治療が世界中で広く受け入れられている理由の一つでもあります。
なぜ注意が必要?血行促進が効果に与える影響
ボトックスの基本的な仕組みが「神経伝達をブロックし、筋肉の働きを休ませること」であると理解できると、次に「施術当日の注意点」がなぜ重要なのかが見えてきます。その最大の理由は、「血行促進」が薬剤の作用に予期せぬ影響を与える可能性があるためです。
ボトックス注射は、シワの原因となる筋肉や、発達を抑えたい筋肉(エラの咬筋など)に対し、非常に精密な計算のもとで注入されます。医師は、目的の筋肉(ターゲット筋)にのみ薬剤が作用し、その周囲にある意図しない筋肉には影響が及ばないよう、注入量や深さ、注入箇所を解剖学的な知見に基づいて微細にコントロールしています。
施術直後の薬剤は、まだ注入部位の組織に完全には浸透・安定していません。この不安定な時期に、飲酒、激しい運動、サウナ、長時間の入浴などで体温が急激に上昇し、全身の血行が過度に促進されるとどうなるでしょうか。
血流が著しく増加すると、注入されたボトックス製剤がターゲット筋に十分留まる前に、血流に乗って拡散してしまう可能性があります。また、血管が拡張することで、注入部位の腫れや内出血のリスクも高まります。
この「意図しない薬剤の拡散」が起こると、いくつかの望ましくない結果を招く恐れがあります。 第一に、本来効かせたい筋肉での薬剤濃度が薄まってしまい、期待していたほどの効果が得られない(効果の減弱)可能性です。
第二に、隣接する意図しない筋肉にまで薬剤が作用し、例えば表情筋の場合、不自然な引きつれや、まぶたが重く感じる(眼瞼下垂など)といった予期せぬ副作用のリスクが高まることが理論的に考えられます。
ボトックス施術の当日に安静を保ち、血行を促進する行為を避けることは、薬剤を「狙った場所」に「狙った量」だけ留まらせ、その効果を正確に発揮させるために不可欠な医療的処置なのです。
効果の個人差と当日の過ごし方の重要性
ボトックスの効果の現れ方や持続期間には、個人差が存在します。これは複数の研究報告でも示されており、主に以下のような要因が関与しているとされています。
一つは、対象となる筋肉の量や強さ、発達の程度です。例えば、エラの筋肉(咬筋)が日常的に強く噛みしめるクセなどで非常に発達している場合、標準的な注入量では効果が限定的であったり、持続期間が短くなったりすることがあります。
次に、体質や代謝の違いです。ボツリヌストキシン製剤を体内で分解・排出するスピードは人によって異なり、一般的に代謝が活発な方は、効果の持続がやや短くなる傾向が指摘されています。
さらに、過去の施術歴や頻度も影響します。短期間に繰り返し施術を受けることで、ごく稀ではありますが中和抗体(薬剤の効果を打ち消す抗体)が体内で産生され、効果が出にくくなる可能性もゼロではありません。
このように、ボトックスの効果や持続性には、筋肉量、体質、日々の生活習慣など、ご自身ではコントロールが難しい複数の要因が複雑に絡み合っています。
だからこそ、唯一「ご自身で確実にコントロールできる要素」である施術当日の過ごし方を最適化することが、非常に重要になるのです。
体質や生まれ持った筋肉量を変えることはできなくても、施術当日に飲酒を控え、激しい運動を避け、熱いお風呂を我慢するといった行動は、誰もが実践可能です。
これらの注意点を守ることは、ボトックス製剤が持つポテンシャルを最大限に引き出し、効果の減弱や予期せぬリスクを自ら遠ざける最も確実な方法と言えます。理想の結果を追求するため、そして何より安全性を高めるためにも、ボトックス当日のセルフケアは、施術の「最後の仕上げ」として捉えることが賢明です。
ボトックス当日に控えてほしいNG行為とは?
前章では、ボトックス施術当日の過ごし方がなぜ重要なのか、その医学的な理由(血行促進と薬剤の拡散リスク)について詳述しました。理論的な背景を理解した上で、次に関心が高まるのは「具体的に何を避けるべきか」という実践的な行動指針でしょう。
ボトックスを受けた当日の行動は、効果の安定化とダウンタイム(腫れや内出血など)の最小化に直結します。ここでは、特に質問の多い「飲酒」「運動」「入浴」「マッサージ」の4つの主要なNG行為について、なぜ控えるべきなのか、いつまで控えるべきなのかを明確に解説します。
まずは、ボトックス当日に推奨されない行動の概要を一覧表で確認します。
| 項目 | 具体的な行動例 | 推奨されない理由 | 推奨される期間(目安) |
|---|---|---|---|
| 飲酒(アルコール摂取) | ビール、ワイン、日本酒、ウイスキーなど全ての酒類 | 血行促進による腫れ・内出血の悪化、薬剤の拡散リスク | 最低でも24時間(できれば数日間) |
| 激しい運動・筋トレ | ランニング、ジムでのトレーニング、ホットヨガ、水泳 | 体温上昇と血流増加による薬剤の拡散、腫れのリスク | 最低でも24時間(当日は安静) |
| 長時間の入浴・サウナ | 湯船に浸かる、サウナ、岩盤浴、よもぎ蒸し | 身体の深部からの加温による血行促進 | 当日(シャワーは可)。2〜3日後からが望ましい。 |
| 施術部位への強い刺激 | フェイシャルエステ、マッサージ、美顔器の使用、強い洗顔 | 薬剤の物理的な拡散による、意図しない筋肉への作用 | 最低1週間(部位や内容により2週間) |
飲酒(アルコール摂取)
ボトックス施術当日のアルコール摂取は、最も注意が必要な行為の一つです。アルコールには強力な血管拡張作用があり、摂取すると体温が上昇し、全身の血流が著しく増加します。
前章で述べた通り、血行が過度に促進されると、注入されたボトックス製剤(ボツリヌストキシン)が目的の筋肉に定着する前に、血流に乗って周囲の組織へ拡散してしまう理論的リスクが高まります。これにより、期待した効果が弱まったり、予期せぬ部位の筋肉に作用(例:表情筋の場合の不自然な引きつれ)したりする可能性が懸念されます。
それ以上に直接的なリスクとして、「内出血」と「腫れ」の悪化が挙げられます。ボトックスは極細の針を用いて注射しますが、皮膚の下には無数の毛細血管が走行しており、施術の際に微小な血管が傷つくことは避けられません。
通常であればすぐに止血される程度のものですが、アルコールによって血流が亢進し、血管が拡張している状態では、出血が止まりにくくなります。結果として、通常よりも目立つ内出血(青あざ)や、強い腫れといったダウンタイムの症状を助長する恐れがあります。
「少しだけなら」「アルコール度数が低ければ」といった自己判断は危険です。アルコールに対する反応性(顔の赤みや血流の変化)には非常に大きな個人差があるため、安全を期すことが最優先されます。多くのクリニックでは、最低でも施術後24時間はアルコール摂取を厳禁としています。可能であれば、腫れや内出血のリスクが落ち着くまでの2〜3日間は控えるのが最も賢明な選択です。
激しい運動・筋力トレーニング
飲酒と同様の理由で、体温上昇と血流増加を伴う激しい運動や筋力トレーニングも、ボトックス施術当日は厳に控えるべきです。
ランニング、エアロビクス、ジムでのウエイトトレーニング、ホットヨガ、水泳といった運動は、心拍数を大幅に上昇させ、全身の血液循環を活発にします。この状態は、飲酒時と同じく、薬剤の拡散や内出血・腫れのリスクを高めます。特に、重い器具を持ち上げるような筋力トレーニングは、顔や首、肩に強い力みを生じさせ、注入部位の筋肉に不要な圧力をかけることにも繋がりかねません。
日常生活の範囲内での活動(例:通勤での歩行、家事)程度であれば、過度に心配する必要はありません。しかし、健康目的のウォーキングやストレッチであっても、汗ばむほど行うと体温は上昇し、血流は促進されます。施術当日の原則は「安静」です。予定していたジムやトレーニングはキャンセルし、リラックスして過ごすことを計画してください。
運動の再開時期については、一般的に翌日(24時間経過後)から、ウォーキングや軽いストレッチなど、息が上がらない程度のものから徐々に再開するのがよいでしょう。激しい運動や筋トレの再開は、少なくとも施術後2〜3日、可能であれば1週間程度は様子を見て、腫れや違和感が完全に消失してからにすることをお勧めします。
長時間の入浴・サウナ・岩盤浴
血行促進の要因は、体内からのもの(アルコール・運動)だけではありません。外部からの加温、すなわち身体を深部から温める行為も、ボトックス当日は避けるべきです。
具体的には、湯船に浸かる長時間の入浴、高温のサウナ、岩盤浴、よもぎ蒸しなどがこれに該当します。これらの行為は、体表だけでなく、身体の深部体温を効率よく上昇させ、全身の血管を拡張させます。特にサウナや岩盤浴は、極めて短時間で血流を亢進させる作用があります。
施術当日にこれらの行為を行うと、注入部位の血流が急激に増加し、やはり腫れや内出血のリスクを高めます。また、体温上昇による代謝の亢進が、薬剤の安定に影響を与える可能性も否定できません。
施術当日は、入浴(湯船)を避け、体温が上がりすぎないよう「ぬるめのシャワー」で短時間で済ませることを強く推奨します。シャワーであれば、身体を深部から温めることなく、注射部位の清潔を保つことができます。
洗顔や洗髪も可能ですが、次項で述べるように、施術部位を強くこすらないよう細心の注意が必要です。サウナや長時間の入浴の再開は、最低でも翌日以降、クリニックの指示にもよりますが、腫れや赤みが完全に引くまでの2〜3日間は避けるのが安全です。
施術部位へのマッサージや強い刺激
これまでの3項目は主に「血行促進」によるリスクでしたが、この項目は「物理的な圧迫」による薬剤の拡散リスクへの注意喚起です。これは、他のNG行為とは異なる機序であり、より長期間の注意が必要となります。
ボトックス製剤は、注入後すぐに目的の筋肉の神経末端に強固に結合するわけではなく、組織内で安定し、作用を発揮し始めるまでに一定の時間を要します。この不安定な時期に、施術部位に対してマッサージや強い圧迫、振動などを加えてしまうと、薬剤が物理的に押し出され、隣接する意図しない筋肉へと拡散してしまう危険性があります。
例えば、眉間のシワ治療(皺眉筋への注射)において、薬剤がまぶたを開ける筋肉(眼瞼挙筋)にまで広がると、まぶたが重く開けにくくなる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」という重篤な副作用を引き起こす可能性があります。
したがって、施術当日のフェイシャルエステ(特にハンドマッサージ)や、家庭用美顔器(EMS、ラジオ波(RF)、超音波、ローラーなど)の使用は厳禁です。
洗顔やスキンケアの際も、施術部位をゴシゴシと強くこすることは避け、たっぷりの泡で優しく触れる程度に洗い、化粧水や保湿クリームもそっと押さえるように塗布してください。この物理的な刺激に関する注意は、飲酒や運動よりも長く求められることが多く、一般的に施術後1〜2週間は、施術部位への意図的なマッサージや強い刺激を避けるよう指導されます。
ボトックス施術の効果を最大限に引き出すためのポイントとは?
第2章では、飲酒や激しい運動など、ボトックス施術当日に控えるべき「NG行為」について、その理由とともに詳述しました。それらは主に、効果の減弱やリスクを回避するための「守り」の注意点と言えます。
では、逆に施術の効果を最大限に引き出すために、積極的に実践できる「攻め」のアフターケアは存在するのでしょうか。ここでは、ダウンタイムを最小限に抑え、薬剤の効果を安定させるために当日に心がけたい、3つのポジティブなポイントについて解説します。
当日はできるだけ安静に過ごす
施術当日に最も推奨される過ごし方は、シンプルですが「安静に過ごす」ことです。これは、第2章で解説した激しい運動を避けるという消極的な理由だけではありません。
ボトックス注射は医療行為であり、ごく微細な針とはいえ皮膚や筋肉組織に物理的な刺激(微小な損傷)を与えます。身体はこの微小な損傷から回復しようとします。この時、リラックスして心身ともに負担をかけない状態を保つことが、ダウンタイム(腫れや内出血、赤みなど)の軽減に直結します。
精神的な緊張やストレスも、無意識のうちに筋肉をこわばらせたり、血圧を上昇させたりする要因となり得ます。施術当日は、仕事や会食などの予定を詰め込みすぎず、自宅でゆったりと読書をしたり、リラックスできる音楽を聴いたりして過ごすのが理想です。
施術直後は、注入されたボトックス製剤が目的の筋肉周辺の組織に浸透し、神経末端への結合を開始する重要な時期です。この時期に心身を安静に保つことは、薬剤が安定して作用するための最適な体内環境を整えることにつながります。
血行が必要以上に促進されず、筋肉もリラックスした状態を保つことで、薬剤の意図しない拡散リスクを最小限に抑えることができます。結果として、この「安静」というシンプルな行動が、施術効果の最大化に貢献するのです。
適切なスキンケアを心がける
ボトックス施術当日は、施術部位のスキンケアにも特別な注意が必要です。第2章で触れた通り、マッサージや美顔器などの「強い刺激」は厳禁ですが、同時に「過度に触らない」ことと「清潔・保湿」を両立させる必要があります。
注射針による微小な穴(針穴)は、通常、数時間程度で自然に塞がるとされていますが、施術直後の皮膚は非常にデリケートな状態です。このため、当日の洗顔やスキンケアは「防御的」に行うことが求められます。
洗顔時は、スクラブ入りやピーリング作用のある洗顔料の使用は避けてください。低刺激性の洗顔料をしっかりと泡立て、その泡をクッションにするようにして、施術部位には極力触れず、優しく泡を乗せる程度で済ませます。もちろん、ゴシゴシとこすることは絶対に避けるべきです。
洗顔後は、アルコール(エタノール)含有量の多い収れん化粧水や、ビタミンC誘導体高配合の美容液など、刺激を感じる可能性のあるアイテムは避け、敏感肌用や保湿に特化した化粧水、乳液、クリームでシンプルにケアを完結させることが推奨されます。
新しい美容液を試したり、シートマスク(特に密着させて圧がかかるもの)を使用したりするのも避けましょう。肌への刺激を最小限に抑え、保湿(皮膚のバリア機能のサポート)に徹することが、健やかな状態を保ち、トラブルを防ぐ鍵となります。
処方された薬の正しい使用
施術後、クリニックによっては内出血や腫れを早期に軽減するための外用薬(塗り薬)や、稀に内服薬が処方される場合があります。例えば、内出血を早く吸収させることを目的としたヘパリン類似物質含有クリームや、腫れを抑える抗炎症薬などが代表的です。
もしこれらの薬剤が処方された場合は、必ず医師または看護師から受けた指示通りの用法・用量・使用期間を守ってください。処方薬は、施術後の経過を良好に導くために医学的な判断に基づいて提供されています。
自己判断で「早く治したいから」と推奨された量以上に多く塗布したり、「面倒だから」と使用を中断したりすると、期待した効果が得られないばかりか、予期せぬ皮膚トラブル(かぶれなど)の原因にもなり得ます。
特に注意すべきは、市販の内出血用クリームや、ご自身で所持している他の薬剤(例えば湿布や、過去に処方されたステロイド軟膏など)を、医師の許可なく施術部位に使用することです。これらは予期せぬ相互作用や刺激を引き起こす可能性があるため、絶対に避けてください。処方された薬剤を指示通りに正しく使用することも、施術効果を最大化し、ダウンタイムを最短で終えるための重要なアフターケアの一環です。
【エラ・肩・脇部位別】特に注意したいポイントまとめ!
これまでの章で、ボトックス施術当日における医学的な背景(第1章)、飲酒や運動といった共通のNG行為(第2章)、そして効果を最大化するための積極的な過ごし方(第3章)について解説してきました。
これらは全ての部位に共通する基本原則です。しかし、ボトックスを注入する部位の特性—例えば、食事に使う「エラ」の筋肉(咬筋)と、発汗に関わる「脇」の皮膚浅層では、施術後の懸念点や日常生活での注意点が自ずと異なります。
ここでは、特に人気の高い「エラ」「肩」「脇」の3部位に焦点を当て、それぞれの部位特有の、より具体的なアフターケアのポイントを詳しく解説します。
エラボトックス(咬筋)
エラボトックスは、発達したエラの筋肉(咬筋)の働きを緩め、フェイスラインをシャープに見せることや、歯ぎしりの緩和を目的として行われます。咬筋は「食事(咀嚼)」という日常生活の動作に直結する筋肉であるため、特有の注意が必要です。
食事内容(極端に硬いものは避ける)
施術当日から数日間は、薬剤が筋肉に作用し始める大切な時期です。この期間に、スルメや硬いナッツ、フランスパン、ガム、硬い肉類など、強い咀嚼(そしゃく)を長時間必要とする極端に硬い食べ物を摂取することは、推奨されません。
理由としては、ボトックスで「休ませよう」としている咬筋を酷使することになり、筋肉の疲労感や違和感(だるさのような感覚)が強く出る可能性があるためです。
また、理論上、薬剤が安定する前に筋肉に過度な負荷をかけることが、効果の定着に影響を与える可能性もゼロではありません。当日は、お粥やうどん、豆腐料理など、消化が良く、あまり強く噛まなくても良い食事を心がけると安心です。通常の食事は翌日以降、徐々に再開して問題ありません。
睡眠時の姿勢(うつ伏せ寝)
見落としがちなのが、睡眠時の姿勢です。特に「うつ伏せ寝」は、長時間にわたってエラ(咬筋)部分に物理的な圧迫を加え続けることになります。
第2章で解説した通り、施術部位への物理的な圧迫は、薬剤が意図しない範囲(例えば、口角を動かす笑筋など)へ拡散するリスクを高める可能性があります。
施術後は、薬剤が安定するまでの数日間、特に当日は、できるだけ仰向けで寝ることを推奨します。横向き寝も、片側に体重がかかるため、枕やクッションで調整し、エラ部分が強く圧迫されないよう工夫が必要です。
施術後の歯科治療のタイミング
施術直後の歯科治療(クリーニング、虫歯治療、インプラント、親知らずの抜歯など)は避けるべきです。歯科治療では、長時間にわたり口を大きく開け続けたり、器具によって頬や顎周辺に圧力がかかったりすることがあります。
これらの刺激が、エラに注入した薬剤に影響を与える可能性があります。ボトックス施術を受ける予定がある場合、歯科治療はボトックスより前に済ませておくか、あるいは施術後、最低でも1〜2週間は期間を空けるようにスケジュールを調整することが賢明です。
緊急性のない歯科治療は、必ずボトックス施術を受けたクリニックに相談の上、適切なタイミングを計ってください。
肩ボトックス(僧帽筋)
肩ボトックスは、首から肩にかけて広がる「僧帽筋(そうぼうきん)」の過剰な緊張を和らげ、慢性的な肩こりの緩和や、首を長く見せるなどの美的な効果が期待できる治療です。
肩は重い荷物を持ったり、マッサージを受けたりと、外部からの刺激を受けやすい部位であるため、特有の注意が求められます。
重い荷物の持ち方(リュックサック・ショルダーバッグ)
施術当日は、肩の筋肉(僧帽筋)を安静に保つことが重要です。重い荷物、特にリュックサックやショルダーバッグは、肩の注入部位に直接的な圧迫と負担をかけます。リュックのストラップが僧帽筋を長時間圧迫することは、薬剤の拡散リスクを高めるだけでなく、血行不良や筋肉の緊張を招き、施術後の違和感を強める可能性があります。
また、重いショルダーバッグを片側だけで持つと、無意識に肩が上がり、ボトックスで休ませようとしている筋肉に不必要な力が入ってしまいます。施術当日は、荷物を最小限にするか、キャリーケースを利用する、手で持つタイプのカバンにするなど、肩に負担がかからない工夫が求められます。
整体やマッサージを受けるタイミング
肩こり改善目的で施術を受ける場合、直後にマッサージや整体を受けたくなるかもしれませんが、これは最も避けるべき行為です。
第2章で述べた通り、施術部位への強いマッサージは、薬剤を意図しない筋肉(例えば首や腕、背中の筋肉)に拡散させ、効果の減弱や、予期せぬ部位の脱力感などの副作用を引き起こす重大なリスクとなります。
ボトックスが安定し、効果が発現するまでには時間がかかります。肩へのマッサージ、整体、鍼治療、カッピング(吸い玉)などは、最低でも1〜2週間は厳禁です。施術後は、僧帽筋の緊張が徐々に解けていく自然な経過を待つ必要があります。
寝違えへの注意
ボトックスが作用し始めると、筋肉の動きや力の入り方が普段と変わるため、人によっては一時的に肩周りのバランスに違和感を覚えることがあります。
この時期に、合わない枕で寝たり、ソファなどで不自然な姿勢のままうたた寝をしたりすると、「寝違え」のような強い痛みを引き起こしやすい状態になる可能性があります。施術後数日間は、首や肩に負担のかからない高さや硬さの枕を選び、正しい姿勢で睡眠をとるよう意識することが、快適なダウンタイムにつながります。
脇ボトックス(多汗症・腋臭症)
脇ボトックスは、主に多汗症(過剰な発汗)や、それに伴う臭いの軽減を目的として行われます。これはエラや肩とは異なり、筋肉ではなく、皮膚の浅い層(真皮内)にある汗腺(エクリン汗腺)への神経伝達をブロックする治療です。そのため、注意すべきポイントも「筋肉への影響」ではなく「皮膚への刺激」が中心となります。
制汗剤の使用(当日は避けるべきか)
施術当日は、注射による微細な針穴が脇の広範囲にわたって多数開いている状態です。脇の皮膚はもともとデリケートであり、施術直後は非常に敏感になっています。 この状態で、スプレータイプ、ロールオンタイプ、スティックタイプなどを問わず、制汗剤(デオドラント剤)を使用することは注意が必要です。
制汗剤に含まれるアルコール成分や制汗成分(塩化アルミニウムなど)、香料が針穴から入り込み、強い刺激(しみる感覚)や炎症、かぶれ(接触皮膚炎)を引き起こすリスクがあります。
ボトックス施術当日は制汗剤の使用を避け、清潔な汗拭きシートなどで優しく汗を拭き取る程度に留めてください。針穴が完全に塞がる翌日(24時間後)以降、様子を見ながら再開するのが安全です。
自己処理の再開タイミング
カミソリや毛抜き、ワックスなどによる脇毛の自己処理も、皮膚への物理的な刺激となります。カミソリは皮膚の表面(角質層)を削り取り、毛抜きやワックスは毛穴に強い負荷をかけます。施術直後の敏感な皮膚にこれらの刺激を加えると、炎症や色素沈着、毛嚢炎(もうのうえん)、埋没毛などのトラブルの原因となります。
特に脇は雑菌が繁殖しやすいため、針穴が完全に閉じ、赤みや違和感が消失するまでの数日間(最低でも2〜3日、可能なら1週間)は、自己処理を控えることが推奨されます。医療脱毛の施術を受ける場合も、同様に最低1週間は期間を空ける必要があります。
タイトな衣類の着用
脇ボトックスは、他の部位と比べて注入箇所が広範囲にわたり、注射回数も多くなる傾向があります。そのため、施術直後は赤みや軽い腫れ、点状の内出血が出ることがあります。
この状態で、脇にぴったりと張り付くようなタイトな衣類(補正下着や、袖ぐりが極端に狭いトップスなど)を着用すると、摩擦によって皮膚が擦れ、炎症を悪化させる可能性があります。
施術当日は、通気性が良く、脇の部分にゆとりのある、柔らかい素材(コットンなど)の衣類を選ぶことが、ダウンタイムを快適に過ごすためのポイントです。
まとめ
ボトックス施術当日の注意点について、医学的な理由から具体的なNG行動、さらには効果を高める過ごし方、部位別の特記事項まで網羅的に解説しました。
ボトックスの効果を最大限に引き出す鍵は、「薬剤を狙った筋肉に的確に留め、安定させること」に尽きます。そのために最も重要なのが、飲酒・激しい運動・長時間の入浴といった「血行を過度に促進する行為」を厳に慎むことです。
施術そのものが成功しても、当日のアフターケア次第で結果は左右されます。ご紹介したポイントを実践し、安静に過ごすことが、ダウンタイムを最小限に抑え、理想の効果を長く持続させる最短距離です。
少しでも不安や疑問が残る場合は、自己判断せずに必ず施術を受けたクリニックに確認し、万全の体制でダウンタイムを乗り切りましょう。
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