咀嚼(よく噛むこと)とは、食物を口腔内でしっかりと細かくする行為であり、消化の第一段階にとどまらず、満腹感の形成・食後血糖値・フェイスラインに直接影響することが複数の研究によって示されています。
一口30回を目安にゆっくり食べると、早食いと比べて食後のエネルギー消費量が高まり、体重60kgの人が1日3回・1年間継続した場合、体脂肪換算で約1.5kg相当のカロリーを多く消費するとの試算があります(東京工業大学、2014年)。早食い習慣のある人がメタボリックシンドロームを発症した割合は11.6%で、ゆっくり食べる人の2.3%を大きく上回ることも、広島大学による5年間追跡調査で報告されています。
現代人が1回の食事で噛む回数は平均約620回。弥生時代の約3,990回(神奈川歯科大学元教授・齋藤滋氏の研究より)と比べると、6分の1以下に相当します。食の軟食化が進んだ現代において、よく噛む意識を持つことは、健康・美容の両面で実践的な意味を持ちます。
一方で、「よく噛むと顔が大きくなるのでは」という不安を持つ方も少なくありません。ここでは、この誤解を医学的根拠とともに解消しながら、咀嚼の多面的な効果・正しい噛み方の目安・そして咬筋の発達が気になる場合の対処法まで、順を追って解説します。

国立琉球大学医学部医学科を卒業。国内大手美容クリニックなどで院長を歴任し、2024年アラジン美容クリニックに入職。
特にクマ取り治療では、年間症例数3,000件以上を誇るスペシャリストである。「嘘のない美容医療の実現へ」をモットーに、患者様の悩みに真剣に向き合う。
よく噛むことで得られる効果とは
よく噛むことで得られる主な効果は、食べすぎの防止・食後血糖値の管理・フェイスラインの維持という3つに整理でき、いずれも複数の研究で裏付けが示されています。
消化を助けるという機能の話にとどまらず、代謝・体重・美容のそれぞれに日常の咀嚼習慣が直接影響していることが、科学的に明らかになりつつあります。本章では各効果の作用メカニズムと、根拠となる研究データを順を追って解説します。
この章のポイント
・満腹感の形成には食後15〜20分のタイムラグがある
・朝食時の咀嚼強化は血糖調節ホルモンの初期分泌を促進する
・咀嚼が口周りの筋肉を動かし、たるみ予防にもつながる
よく噛むと満腹感が高まり、食べすぎを防げる
満腹感が形成されるまでには、食事開始から少なくとも15分以上のタイムラグがあります。脳の視床下部にある満腹中枢は、血糖値の上昇を感知してはじめて「もう十分」という信号を出しますが、この感知には一定の時間がかかります。早食いの場合、その信号が届く前に必要以上の量を食べ終えてしまうことになります。
よく噛むことは、この時間差を埋める有効な手段のひとつです。咀嚼そのものが口腔内の神経を刺激し、ヒスタミンの分泌を促すことで満腹中枢を早期に活性化することが知られています。また、食べるのにかかる時間が延びることで血糖値の上昇が緩やかになり、満腹感の形成が食事量と合うタイミングに近づきます。
ゆっくり食べることが食後のエネルギー消費量を高める点も見逃せません。東京工業大学の林直亨教授らの研究(2014年)では、急いで食べた場合と比べてゆっくり食べた場合の方が、食後のエネルギー消費量が有意に高くなることが確認されています。体重60kgの人が1日3回、1年間この差を継続すると、食事誘発性熱産生の違いだけで体脂肪換算で約1.5kgに相当するエネルギーを多く消費する試算になります。
早食い習慣はメタボリックシンドロームのリスクを高める
早食いの習慣があると、ゆっくり食べる人と比べてメタボリックシンドロームの発症率が5倍以上に上がることが、広島大学による5年間追跡調査で示されています。
広島大学の山路貴之氏らの研究グループが1,083名を対象に5年間追跡した調査(米国心臓学会学術会議発表)では、食事スピード別のメタボ発症率を以下のように報告しています。
| 食べる速さ | メタボリックシンドローム発症率 |
|---|---|
| 早食い習慣あり | 11.6% |
| 普通の速さ | 6.5% |
| ゆっくり食べる | 2.3% |
この研究では、早食いが体重増加・食後血糖値の上昇・腹囲周囲径の増加と関連することも併せて確認されています。
単に太りやすいという話ではなく、代謝全体に影響をおよぼす習慣として捉える必要があります。食べる速さを意識的に変えることは、特別な食事制限や器具を必要とせず、今日の食卓から取り組める生活習慣の改善です。
血糖値の急上昇を抑える咀嚼の作用
よく噛むことは、食後血糖値の急激な上昇を抑える作用を持ちます。インスリン分泌を血糖上昇が起きる前から前倒しで促せることが、複数の研究で報告されています。
咀嚼がインスリン分泌を前倒しにするメカニズム
通常、食後に血糖値が上昇してからすい臓がインスリンを分泌する流れをたどりますが、咀嚼による口腔内の刺激が脳を経由してすい臓に働きかけ、血糖値が上がる前から初期分泌を促すことがわかっています。これは「頭相分泌(セファリック相インスリン分泌)」と呼ばれる反応です。
よく噛むことでGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1:消化管から分泌されるインクレチンホルモンの一種で、インスリン分泌を促す作用を持つ)の分泌が促進されることも報告されており、食後血糖値の上昇を抑える経路が複数存在することが明らかになりつつあります。
日本人は欧米人と比べてインスリンの分泌量が相対的に少ない傾向があることが知られており、咀嚼によるこの前倒し分泌は、特に日本人の血糖管理において実践的な意義を持ちます。
朝食時の咀嚼は特に効果的
北海道大学大学院教育学研究院の山仲勇二郎准教授らは2019年、健常成人男性9名を対象に「朝10回・朝40回・夜10回・夜40回」の4条件で白米200gを食べたときの血糖値とインスリン値の変化を比較する研究を実施しました(Tohoku Journal of Experimental Medicine掲載)。
| 条件 | 食後血糖値 | インスリン初期分泌 |
|---|---|---|
| 朝・40回咀嚼 | 他の3条件より有意に低い | 食後30分値が有意に増加 |
| 朝・10回咀嚼 | 差は小さい | 増加幅は限定的 |
| 夜・40回咀嚼 | 顕著な差なし | 顕著な差なし |
| 夜・10回咀嚼 | 顕著な差なし | 顕著な差なし |
この研究の核心は、咀嚼回数を増やすだけでなく「朝食時に増やす」ことに特有の効果があるという点です。人体の体内時計(概日リズム)に基づき、朝はインスリンを分泌しやすい時間帯であることが知られており、咀嚼による追加刺激がその働きをさらに引き上げたと考えられています。
対象者9名の小規模研究であるため、あくまで「有望な示唆」として位置づけるのが適切ですが、同研究者による2023年の総説論文でも同様の機序が解説されており、知見としての一定の信頼性は確認されています。
フェイスラインの引き締めと美容への影響
咀嚼は口輪筋・頬筋・咬筋など、フェイスラインに関わる筋肉を複合的に動かす運動であり、継続的な咀嚼習慣がフェイスラインの維持につながる可能性が示されています。
咀嚼が口周りの筋肉に与える影響
食べ物を噛む動作は、咬筋・口輪筋・顎二腹筋などを連動して使う運動です。これらの筋肉は十分に使われない状態が続くと萎縮し、重力と皮下脂肪の影響を受けてたるんでいきます。咀嚼が不十分な食生活が続くと、口まわりや顎下の筋肉が衰え、頬の下垂や顎下のたるみとして顔に変化が現れやすくなります。
ロッテ中央研究所が実施した研究(アンチ・エイジング医学誌、2023年掲載)では、21〜49歳の女性56名を対象に1回2粒×10分間のガム咀嚼を毎食前に1日3回・8週間続けた群と無摂取群を比較したところ、ガム咀嚼群で左右のフェイスライン角度が有意に増加し、顎下皮膚弾力性のたるみ改善傾向が認められています。これはロッテ社内研究であることを踏まえる必要がありますが、咀嚼による筋肉刺激がフェイスラインに影響する可能性を示した知見として参照できます。
唾液成分とアンチエイジングの関連
咀嚼によって唾液分泌量が増えることで、唾液に含まれる成分への注目も高まっています。パロチン(耳下腺から分泌される唾液腺ホルモンの一種で、骨や歯の再石灰化促進・皮膚の新陳代謝活性化との関連が報告されている)と、EGF(上皮成長因子:1986年のノーベル生理学・医学賞の研究で唾液腺から発見された成長因子で、細胞の成長と修復を促す作用を持つ)がその代表的な成分です。
これらの成分が皮膚の新陳代謝に関与する可能性は研究上指摘されていますが、咀嚼を増やすことでこれらの分泌量が明確に増加し直接的な美容効果が得られるという段階のエビデンスは、現時点では限定的です。唾液には肌の再生に関わりうる成分が含まれており、咀嚼を増やして唾液分泌を高めることはその観点からも有益と考えられている、という理解が現時点では適切です。
一口何回噛めばいいのか、正しい噛み方の目安
前章で確認したとおり、咀嚼には食べすぎの抑制・血糖管理・フェイスライン維持という複数の効果が期待できます。では実際に、何回噛めばよいのでしょうか。厚生労働省の普及運動および日本咀嚼学会は「一口30回」を目安として推奨しており、この回数が現代人の咀嚼不足を補う実践的な基準とされています。本章では、その根拠と背景、そして無理なく続けるための具体的な方法を解説します。
この章のポイント
・公的機関が推奨する咀嚼回数の目安は「一口30回」
・現代人の咀嚼回数は戦前の半分以下にまで減少している
・回数を数えることより、食事を味わう意識の方が継続につながる
厚生労働省が推奨する「噛ミング30」とは
一口あたり30回を目安に噛む「噛ミング30(カミングサンマル)」は、厚生労働省が推進する食育・健康づくり運動のひとつです。よく噛んでゆっくり食べることを国民に広める目的で提唱されており、日本咀嚼学会もこの回数を健康維持の観点から支持しています。
一口30回という数字には、満腹中枢への刺激・消化酵素の十分な分泌・食後血糖値の緩やかな上昇という三つの効果が概ね得られる咀嚼量として、研究や臨床経験から積み上げられた根拠があります。
ただし、これは目安であって厳密な規定値ではありません。食材の硬さや大きさによって適切な咀嚼回数は変わり、硬い根菜や肉類は自然と30回前後に達するのに対し、柔らかい豆腐や卵料理では意識的に噛む回数を増やす必要があります。
この30回という目安がいかに現代の食生活から離れているかは、時代別の咀嚼回数の変化を見るとよくわかります。神奈川歯科大学元教授・齋藤滋氏が各時代の食事を再現して咀嚼回数を計測した研究では、以下のような推移が記録されています。
| 時代 | 1回の食事の咀嚼回数 | 食事時間 |
|---|---|---|
| 弥生時代 | 約3,990回 | 約51分 |
| 鎌倉時代 | 約2,654回 | 約29分 |
| 江戸時代 | 約1,465回 | 約22分 |
| 昭和初期 | 約1,420回 | 約22分 |
| 現代 | 約620回 | 約11分 |
昭和初期と現代を比較しただけでも、咀嚼回数は1,420回から620回へ半分以下に、食事時間は22分から11分へと激減しています。わずか1世代のうちに「噛む」という行為の量が大きく失われたことがわかります。
弥生時代との比較では6分の1以下という数字になりますが、現代人が当時の食生活に戻ることは現実的ではありません。まずは一口あたり30回という身近な目標から始めることが、現実的な改善の入口です。
よく噛む習慣を無理なく続けるための実践的なコツ
「30回噛む」を義務として捉えると、食事が苦痛になり続かなくなります。大切なのは回数を数えることではなく、食事を丁寧に味わう意識を持つことです。その意識を自然に引き出す環境を整えることが、習慣化への近道です。
食材と調理法で噛む機会を増やす
最も負担が少ない方法は、食材そのものに噛み応えを持たせることです。野菜はなるべく大きめに切り、煮込みすぎずに歯ごたえを残します。根菜・きのこ・海藻・こんにゃく・貝類など、繊維質や弾力のある食材を日常的に取り入れると、意識しなくても咀嚼回数が自然に増えます。
柔らかい料理が中心になる日は、ひと工夫加えるだけで変わります。ハンバーグやスクランブルエッグにれんこんや玉ねぎの粗みじんを混ぜる、パンをよく焼いて焼き目をつける、雑穀を白米に加えるといった方法で、同じメニューでも咀嚼量を底上げできます。
食べ方の習慣で噛む時間を確保する
一口量を少なめにすることは、咀嚼回数を増やす上で即効性があります。口に食べ物を詰め込むと、物理的に十分噛めないまま飲み込む流れになります。一口ごとに箸を置く習慣は、次の一口を急ぐ動作を遮断するシンプルな方法です。
飲み物で食べ物を流し込む食べ方も、咀嚼を妨げる習慣のひとつです。唾液は食べ物を飲み込みやすくする潤滑剤の役割を担っており、本来はよく噛むことで唾液が十分に分泌され、飲み物の助けを借りずに飲み込めるようになります。食事中の飲み物は食後の水分補給として活用し、食べながら飲む頻度を減らすことで、咀嚼の質が上がります。
食事を「味わう」意識が続けるための核心
日本咀嚼学会をはじめ、食育の専門家が共通して指摘しているのは、「回数を数えることに集中するより、食材の味・香り・食感を意識することの方が自然な咀嚼につながる」という点です。噛めば噛むほど甘みや旨みが増す食材は多く、その変化に意識を向けることで、急いで飲み込もうという衝動が自然と薄れていきます。
義務感からくる30回カウントは継続しにくく、食事の楽しさを損なうリスクがあります。目標はあくまで食事の質を高めることであり、回数はそのための手段です。今日の昼食から、ひと口ごとに少しだけ噛む回数を意識してみてください。
よく噛むと顔が大きくなるのは本当か
前章では咀嚼の目安と継続のコツを整理しました。ただ、「よく噛む習慣を始めたいが、顔が大きくなるのでは」という不安を持つ方は少なくありません。
結論から述べると、日常的な食事での咀嚼回数を増やすことで顔が大きくなる可能性は極めて低いといえます。エラ張りの主な原因は咀嚼ではなく歯ぎしり・食いしばりにあり、むしろ噛まないことの方が顔まわりの老化を招くリスクが高いことが、医学的な観点から指摘されています。本章では、この誤解を構造から解消します。
この章のポイント
・咬筋肥大の主な原因は歯ぎしり・食いしばりであり、食事の咀嚼とは負荷が異なる
・左右均等に噛む習慣が、フェイスラインの左右差を防ぐ
・咬筋の発達が気になる場合はセルフケア・歯科・美容医療の3段階で対応できる
エラ張りの原因は咀嚼ではなく歯ぎしり・食いしばり
日常的な食事での咀嚼回数を増やすだけで咬筋が肥大し、エラが張るようになることは考えにくいです。エラ張りの主な原因は、歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)・食いしばり・片側咀嚼の癖であり、これらは通常の食事とは筋肉への負荷の質と量が根本的に異なります。
咬筋は咀嚼に関わる筋肉の中でも最も強い力を発揮する筋肉のひとつです。ただし筋肥大が生じるためには、筋肉に繰り返し強い負荷がかかり続けることが必要です。食事中の咀嚼は1回の動作が軽く、食事時間も限られています。これに対して歯ぎしりや食いしばりは、睡眠中や無意識下に長時間・強い力で咬筋を収縮させ続けるという、まったく性質の異なる負荷です。
「ガムを噛むとエラが張る」という誤解も広く存在します。ロッテが全国の20〜50代女性400名を対象に実施した意識調査(2023年)では、4人に1人以上にあたる26.1%が「ガムを噛むことによりエラが張る」と思っていることが判明しています。
しかし前述のとおり、同社の研究では8週間のガム咀嚼でフェイスラインが引き締まる傾向が示されており、歯科衛生士の石野由美子氏も「普通にガムを噛んでいる限りエラが張ることはありません」と明言しています。
過度な負荷との違いも踏まえると、通常の食事での咀嚼回数を一口30回程度に増やすことは、咬筋肥大のリスクよりも口周り筋肉の適切な維持という効果の方がはるかに大きいといえます。
正しく噛むことはむしろフェイスラインを整える
よく噛まないことによる筋肉の衰えの方が、フェイスラインへの悪影響として現実的なリスクです。適切な咀嚼は口周りの筋肉を維持し、顔まわりのたるみを防ぐ方向に働きます。
左右均等に噛むことが顔の左右差を防ぐ
咀嚼習慣において特に意識したいのが、左右均等に噛むことです。片側だけで噛む癖が続くと、よく使う側の咬筋・頬筋・側頭筋は発達し、使わない側は衰えていきます。この非対称な筋肉の発達と萎縮が積み重なると、顔の左右差として現れてきます。あごのラインの非対称・頬のボリュームの違い・口角の高さの差といった変化は、多くの場合この片側咀嚼に由来することが歯科・口腔外科の臨床で指摘されています。
左右均等に噛むためには、意識して両側の歯を交互に使う習慣をつけることが基本です。片側に偏りやすい方は、一口ごとに噛む側を意識的に変えるだけでも改善が見込めます。
噛まないことで起きる顔のたるみと老化
咀嚼量が少ない食生活では、口輪筋・頬筋・顎二腹筋など、フェイスラインを支える筋肉群が十分に使われず萎縮していきます。筋肉が萎縮すると皮膚を内側から支える力が弱まり、重力と皮下脂肪の影響を受けて頬が下垂し、顎下にたるみが生じやすくなります。
さらに、咀嚼による刺激は唾液分泌を促し、口腔内環境を整える役割も担っています。唾液分泌量が減少すると口腔内の自浄作用が低下するだけでなく、全身の粘膜や皮膚の健康維持に関わる唾液腺ホルモンの分泌機会も減ります。「よく噛まない状態を続けること」は、エラ張りのリスクよりも、たるみや老け見えのリスクとして現実的な問題です。
咬筋の発達が気になる場合の対処法
咬筋の発達が気になる場合、原因に応じたアプローチを段階的に検討することができます。セルフケア・歯科受診・美容医療という3つの選択肢が存在し、それぞれ適応の範囲が異なります。
| 対処法 | 主な内容 | 適している状態 |
|---|---|---|
| セルフケア | 咬筋マッサージ、就寝時マウスピース、片側咀嚼の改善 | 軽度の張り、予防目的 |
| 歯科受診 | 噛み合わせチェック、歯ぎしり・食いしばりの診断と治療 | 歯ぎしり・食いしばりが疑われる場合 |
| 美容医療 | エラボトックス(ボツリヌストキシン注射)による咬筋へのアプローチ | 咬筋肥大が明確で、見た目の改善を希望する場合 |
セルフケアでできること
日常的なセルフケアとして有効なのは、咬筋マッサージと就寝時のマウスピース使用です。咬筋マッサージは耳の前から頬骨の下にかけての筋肉を、指の腹で円を描くようにほぐす方法で、筋肉の過緊張を和らげる効果が期待されます。就寝時のマウスピースは歯科で作製できるもので、睡眠中の歯ぎしり・食いしばりによる咬筋への過剰な負荷を物理的に軽減します。
また、片側咀嚼の癖がある方は、意識的に左右均等に噛む習慣をつけることが、発達した側の咬筋を過度に刺激しないための基本的な対処になります。
歯科受診と美容医療の使い分け
咬筋の張りや顎の疲れ・痛みが気になる場合は、まず歯科で噛み合わせと歯ぎしり・食いしばりの有無を確認することが先決です。原因が噛み合わせの問題にある場合は、矯正や補綴による根本的な改善が必要になることがあります。
咬筋肥大が明確で見た目の改善を希望する場合には、エラボトックス(ボツリヌストキシン注射)という選択肢があります。咬筋にボツリヌストキシンを注射することで筋肉の収縮力を一時的に弱め、過剰に発達した咬筋を縮小させる施術です。
効果の持続期間には個人差がありますが、一般的に3〜6ヶ月程度とされており、繰り返し施術を受けることで効果を維持できます。ただし、骨格そのものが原因の骨格性エラ張りには効果が限定的です。適応かどうかはカウンセリングで確認することが必要です。
よく噛むことのデメリットと注意点
ここまで咀嚼の効果を整理してきましたが、どのような健康習慣にも過剰になれば逆効果になる側面があります。
よく噛むことも例外ではなく、極端に硬いものを食べ続けたり、回数を数えることへの義務感が先行しすぎたりすると、顎への負担増加や食事そのものの質の低下を招く可能性があります。本章では、咀嚼習慣を正しく維持するための注意点を整理します。
この章のポイント
・過度に硬いものを食べ続けることは顎関節への負担になりうる
・30回カウントへの義務感は食事の楽しさを損ない、継続を妨げる
・大切なのは回数より「食事を味わう」という意識
極端に硬い食品を過剰に食べ続けると顎関節に負担がかかる
よく噛むことは健康に良いですが、極端に硬い食品を長時間・大量に食べ続けることは、顎関節や咀嚼筋に過剰な負荷をかけるリスクがあります。「硬いものをよく噛む」ことと「硬すぎるものを無理に噛み続ける」ことは、まったく異なります。
顎関節は上顎と下顎をつなぐ関節で、口の開閉・咀嚼・発話といった動作全般を支えています。過度な負荷が繰り返されると、関節円板(顎関節のクッションの役割を担う軟骨組織)が損傷したり、関節周囲の筋肉に慢性的な疲労が蓄積したりすることがあります。これが顎関節症の一因になる場合があります。
顎関節症の主な兆候としては、口を大きく開けると痛みがある・口を開閉するときにカクカクという音がする・顎まわりの筋肉がだるく疲れやすい・口が十分に開かないといった症状が挙げられます。これらのサインが現れた場合は、硬い食品の摂取を控え、歯科または口腔外科への相談を早めに検討してください。
日常的な食材の範囲であれば、一口30回程度の咀嚼で顎関節症が引き起こされるリスクは低いとされています。問題になりやすいのは、スルメや硬い煎餅を長時間噛み続ける・氷をそのまま噛み砕く習慣がある・片側だけで硬いものを噛む、といった偏った食べ方が継続する場合です。噛み応えのある食材を意識的に取り入れることと、過度な負荷をかけることは、切り分けて考える必要があります。
噛む回数にこだわりすぎることは食事の質を下げる
「必ず30回噛まなければならない」という義務感を持ちすぎると、食事がストレスになり、かえって食習慣の改善を遠ざけてしまいます。咀嚼の目標はあくまで食事の質を高めることであり、回数を数えること自体が目的になってはいけません。
人が食事から得られる満足感は、味・香り・食感・食べる場の雰囲気といった複合的な要素で構成されています。食事を楽しむことは単なる精神的な話ではなく、消化酵素の分泌や自律神経の状態を介して、消化吸収の効率にも影響することが知られています。「早く食べてはいけない」という緊張感の中で食事をするよりも、おいしいと感じながらゆっくり食べる状態の方が、生理的にも望ましい食事環境です。
食育の専門家や日本咀嚼学会が共通して強調しているのも、この点です。回数を数えることよりも、食材の味わいの変化・噛むほどに広がる旨みや甘み・食感の変化に意識を向けることで、自然と咀嚼回数は増えていきます。「よく噛む」という目標は、食事をより丁寧に楽しむための入口として捉えてください。
義務感を手放したうえで、今日の食事から一口分だけ意識してゆっくり噛んでみることから始めてみてください。
よく噛むことに関するよくある質問
ここまで咀嚼の効果・実践方法・誤解の解消・注意点を順番に解説してきました。最後に、読者から特に多く寄せられる疑問をQ&A形式でまとめます。
Q1.よく噛むだけで本当に痩せられますか?
よく噛むことで食べすぎを防ぎ、食後のエネルギー消費量を高める効果は研究で確認されていますが、それだけで体重が大きく減少するわけではありません。
東京工業大学の研究では、ゆっくり食べることで年間体脂肪換算で約1.5kg相当のエネルギーを多く消費できるという試算が出ていますが、これはあくまで食事内容や運動量が同条件の場合の話です。食事全体のバランスと組み合わせることで、ダイエットを補助する習慣として意味を持ちます。
Q2.一口30回噛むのは、どんな食べ物でも同じですか?
食材によって適切な回数は異なります。厚生労働省の「噛ミング30」は目安であり、硬い根菜や肉類は自然と30回前後に達しやすい一方、豆腐や卵料理などの柔らかい食材は意識して回数を増やす必要があります。
すべての食材で厳密に30回数えることより、「飲み込む前にもう数回噛む」という意識を持つことの方が、継続的な改善につながります。
Q3.よく噛むと血糖値が下がるというのは糖尿病の人にも効果がありますか?
咀嚼がインスリンの初期分泌を促し、食後血糖値の急上昇を抑える可能性は研究で示されています。特に朝食時の咀嚼強化は有効という知見(北海道大学、2019年)もあります。
ただし、咀嚼は血糖管理の補助手段のひとつであり、糖尿病の治療や薬物療法に代わるものではありません。糖尿病の方や血糖値が気になる方は、主治医の指導のもとで食事療法の一環として取り入れてください。
Q4.ガムを噛む習慣はエラ張りの原因になりますか?
通常の範囲でガムを噛む習慣がエラ張りの原因になることは考えにくいです。ロッテが全国の20〜50代女性400名を対象に実施した調査(2023年)では26.1%が「ガムでエラが張る」と誤認していることが判明していますが、同社の研究では8週間のガム咀嚼でむしろフェイスライン角度が改善する傾向が示されています。
エラ張りの主な原因は歯ぎしり・食いしばりなど過剰な咬筋への負荷であり、食事やガム咀嚼の範囲では咬筋が過剰に肥大するリスクは低いとされています。
Q5.顎がすぐ疲れる・痛むのですが、よく噛む習慣を続けて大丈夫ですか?
顎の疲れや痛みが続く場合は、顎関節症や噛み合わせの問題が背景にある可能性があります。そのような状態で硬い食材を増やしたり咀嚼回数を無理に増やしたりすることは、症状を悪化させるリスクがあります。
まずは歯科または口腔外科で顎関節と噛み合わせの状態を確認し、問題がなければ段階的に咀嚼習慣を取り入れることをお勧めします。口を開けるときのカクカク音・開口時の痛み・口が大きく開かないといった症状がある場合は、早めの受診が必要です。
Q6.エラボトックスを受けると、食事の咀嚼力に影響が出ますか?
エラボトックス(ボツリヌストキシン注射)は咬筋の過剰な収縮を抑制することで咬筋を縮小させる施術であり、日常的な食事の咀嚼に必要な筋力を失わせるものではありません。
咬筋には食事に必要な機能を維持できる余裕があり、適切な用量・部位への施術であれば咀嚼機能への影響は最小限に抑えられます。ただし、施術直後は硬い食材が噛みにくく感じる場合があることも報告されており、施術を受ける際はクリニックで詳しく確認してください。
まとめ
よく噛む習慣を実践するうえで、まず意識したいのは「一口30回・左右均等に噛む」という基本です。とりわけ朝食時の咀嚼は、血糖管理ホルモンの分泌リズムとかみ合うため、より高い効果が期待されます。
エラ張りについては、日常的な食事の咀嚼回数を増やすことで咬筋が過剰に発達することは考えにくく、むしろ噛まないことで頬や顎のたるみが進行していくリスクの方が高いといえます。
咬筋の発達がもともと気になっている場合や、歯ぎしり・食いしばりの習慣がある場合は、セルフケアと並行して専門家への相談を検討してみてください。エラボトックスなど、食事習慣の改善だけでは届かない部分へのアプローチも選択肢のひとつです。
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参考文献・出典
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